日商簿記の参考書は数が多く、しかも3級と2級では中身がかなり違います。さらに近年はネット試験(CBT)が普及し、本選びのポイントも変わってきました。どれを選び、どう使うかで、合格までの距離は大きく変わります。
この記事では、日商簿記の傾向(級ごとの違い、ネット試験、公式過去問が非公開という特殊事情)と各シリーズの特徴を踏まえて、3級・2級のおすすめ参考書を整理します。1冊ずつ「誰向けか」「何がいいか」「どう使うか」まで踏み込みます。
なお本サイトには、勉強法の総論として学習科学の視点で選ぶ勉強法の本ガイド、同じ枠組みの宅建・行政書士のおすすめ参考書ガイドもあります。
まず、日商簿記の仕組みを押さえる
本選びの前に、試験の形を確認します。日商簿記は級によって範囲が異なります。
- 3級:商業簿記(個人商店・小規模企業の経理の基礎)
- 2級:商業簿記+工業簿記(製造業の原価計算が加わる)
- 1級:商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算(経営管理レベル)
受け方は2通りあります。統一試験(ペーパー、年3回=6月・11月・2月)と、ネット試験(CBT、会場で随時受験・結果即時)です。両者は出題範囲・配点・合格基準・試験時間が同じで、難易度を分けて作られているわけではありません。ただしネット試験には、統一試験の前後に施行休止期間があります。なお1級は統一試験のみで、年2回(6月・11月)です。
試験時間と合格点は級ごとに異なります。
| 級 | 試験時間 | 合格基準 |
|---|---|---|
| 3級 | 60分 | 100点満点・70点以上 |
| 2級 | 90分 | 100点満点・70点以上 |
| 1級 | 商業簿記・会計学90分+工業簿記・原価計算90分(途中休憩あり) | 70点以上、かつ各科目40%(各25点満点中10点)以上 |
いずれも絶対評価で、70点を超えれば合格できます(1級のみ各科目の足切りあり)。2021年度の改定で、3級は120分から60分、2級は120分から90分へと試験時間が短縮され、出題形式も整理されました。古い版の本は形式が古いままなので注意が必要です。
そして、簿記の本選びで見落とされがちな大事な事実があります。日商簿記の本試験問題は持ち帰りができず、公式の過去問は公表されていません。そのため市販の「過去問題集」は、各社が再現・予想した問題が中心です。純粋な公式過去問は手に入らない、という前提で演習教材を選ぶ必要があります。
簿記本選びの3つの原則
原則1 受験する級・最新版を選ぶ
簿記の参考書はほぼ毎年改訂されます。出題区分や会計基準の改正が反映されるので、必ず最新版を選びます。とくに2級は工業簿記の有無で3級とは別物なので、級に合った本を使います。
原則2 テキストと問題演習をセットで
簿記は手を動かして仕訳を切ってこそ身につきます。テキストを読むだけでは解けるようになりません。テキストと問題集(または演習一体型)を必ずセットで用意します。
原則3 ネット試験を受けるなら対応版を
ネット試験はパソコン上で解答します。画面での解答に慣れるため、ネット試験の模擬プログラムが付いた最新版を選ぶと安心です。近年の主要シリーズは、これを標準で付けています。
3級のおすすめ:まずは仕訳の土台をつくる
3級は簿記の入口です。タイプの違う3シリーズを挙げます。最短型(一体型)か、じっくり型(教科書+問題集)かで選びます。
誰向けか
最短で3級に受かりたい初学者。1冊で完結させたい人に向きます。
何がいいか
テキストと問題演習が1冊にまとまった一体型で、ストーリー仕立てで読み進められます。ネット試験の模試プログラムも付き、これ1冊+仕上げの予想問題で合格レベルに届きやすいのが魅力です。持ち運びやすく、独学の定番です。
どう使うか
通読しながら例題を必ず自分の手で解きます。読むだけにせず、各章の問題を解いて仕訳を体に入れてから次へ進みます。
誰向けか
図解でじっくり理解したい人。演習量もしっかり確保したい人に向きます。
何がいいか
フルカラーの図解で、簿記の考え方を視覚的に理解できます。対になる『簿記の問題集 日商3級』とセットで使うと、インプットとアウトプットを十分な量こなせます。「なぜそう仕訳するのか」から理解したい人に向く王道シリーズです。
どう使うか
教科書で理解したら、対応する『簿記の問題集』で同じ範囲を解きます。教科書と問題集の往復で定着させます。
誰向けか
活字が苦手な人、まず簿記を好きになりたい人に向きます。
何がいいか
4コマ漫画とオールカラーで、簿記のとっつきにくさをやわらげてくれる一体型です。全問の解説動画やネット試験の模試が付き、別途スマホの仕訳学習アプリ(パブロフ簿記)と組み合わせれば、スキマ時間の演習もできます(アプリは書籍とは別の商品です)。
どう使うか
漫画で流れをつかみ、各章の問題を手で解きます。通勤などのスキマは、別売アプリで仕訳をくり返すと効率的です。
2級のおすすめ:商業簿記+工業簿記の2冊で
2級は3級にない工業簿記(原価計算)が加わります。多くのシリーズは商業簿記と工業簿記が別冊なので、2冊そろえるのが基本です。3級で使ったシリーズをそのまま2級でも続けると、説明の流儀が同じで学びやすくなります。
誰向けか
3級で『みんなが欲しかった!』や図解型を使った人。2級も体系立てて理解したい人に向きます。
何がいいか
2級の商業簿記をフルカラーで丁寧に解説します。同シリーズの『簿記の教科書 日商2級 工業簿記』と、対応する『簿記の問題集』をそろえれば、2級の範囲を漏れなくカバーできます。3級から続けて使えば、用語や図解の流儀が一貫していて負担が少ないのも利点です。
どう使うか
商業簿記と工業簿記を並行して進めます。とくに工業簿記は、原価の流れを図で追いながら手を動かすのが理解の近道です。問題集とセットで反復します。
なお、最短で2級を狙うなら、3級と同じく一体型の『スッキリわかる 日商簿記2級』(商業簿記・工業簿記の分冊)や『パブロフ流 日商簿記2級』も選べます。3級で使ったシリーズの2級版を続けるのが、いちばん迷いません。
過去問・予想模試・ネット試験対策
前述のとおり、日商簿記の公式過去問は公表されていません。そのため仕上げの演習は、各社の予想問題集・模試(『まるっと完全予想問題集』、各予備校の直前予想模試、ネットスクールの予想問題集など)が中心になります。これらは本試験の傾向を再現・予想して作られています。
ネット試験を受けるなら、パソコン画面での解答に慣れることが大切です。テキスト付属のネット試験模試プログラムや、ネット試験形式の予想問題で、操作と時間配分に慣れておきましょう。本番と同じ時間(3級60分・2級90分)を計って解く練習を、直前期に必ず入れてください。
1級を目指すなら
1級は商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算の4科目で、難易度・分量とも2級から大きく上がります。網羅型の『合格テキスト/合格トレーニング(よくわかる簿記シリーズ)』や、ネットスクールの『サクッとうかる』シリーズが定番です。まずは2級を固めてから、専用シリーズでじっくり取り組むのが現実的です。
タイプ別・最短セット
迷ったら、自分に近いセットから始めてください。
- 最短で受かりたい初学者なら:『スッキリわかる 日商簿記3級』→ 仕上げに予想問題集。一体型で素早く一周。
- 図解でじっくり理解したいなら:『みんなが欲しかった! 簿記の教科書』+『簿記の問題集』。3級で慣れたら同シリーズで2級へ。
- 活字が苦手・楽しく続けたいなら:『パブロフ流 日商簿記3級』+別売アプリ。漫画とアプリでスキマ演習。
- 2級は3級と同じシリーズを継続:商業簿記と工業簿記の2冊をそろえ、予想模試で仕上げる。
いずれも、ネット試験を受けるなら対応版を選び、直前に予想模試で本番形式に慣れるのは共通です。
本を「買って終わり」にしないために
簿記は、テキストを読むだけでは絶対に解けるようになりません。実力を伸ばすのは、仕訳を自分の手で切り、問題を解いて思い出す回数です。読み返して「わかった」と感じるのは流暢性の錯覚で、定着とは別物だと学習科学は教えています(詳しくは学習科学シリーズへ)。
試験日を入れるだけで分散学習にもとづく復習日を提案する復習スケジューラを使えば、問題演習の「いつ解き直すか」を計画に落とせます。ネット試験は受験日を自分で選べるので、復習計画と相性が良いはずです。そして、手を動かす学習を毎日続けるには、集中できる固定の場所が効きます。
よくある質問
簿記は3級と2級のどちらから始めるべきですか?学習時間の目安は?
簿記がはじめてなら、3級から始めるのが基本です。3級で複式簿記の土台(仕訳)を作ってから2級へ進むと、つまずきにくくなります。学習時間の目安は、3級でおおむね50〜100時間、2級で150〜350時間とされます(情報源により幅があり、公式の数字ではありません)。2級は3級にない工業簿記(原価計算)が加わるぶん、3級よりかなりボリュームが増えます。
統一試験(ペーパー)とネット試験(CBT)はどちらがいいですか?
出題範囲・配点・合格基準(70点)・試験時間は同じです。違いは受け方で、統一試験は年3回(6月・11月・2月)の決まった日、ネット試験は会場で随時受けられて結果も即時に出ます(ただし統一試験の前後に施行休止期間があります)。スケジュールを自分で決めたい人はネット試験が便利です。なお日商簿記の本試験問題は持ち帰り不可で公式の過去問は公表されていないため、市販の「過去問題集」は各社が再現・予想した問題が中心です。
テキストは一体型と「教科書+問題集」のどちらがいいですか?
最短で受かりたい初学者には、テキストと問題演習が1冊にまとまった一体型(『スッキリわかる』『パブロフ流』など)が向きます。一方、図解でじっくり理解し、演習量も確保したい人には、フルカラーの『みんなが欲しかった! 簿記の教科書』+『簿記の問題集』の2冊立てが向きます。どちらも近年はネット試験対応の模試プログラムが付くものが多いので、ネット試験を受けるなら対応版を選びましょう。
古い年度・古い版の簿記の本を使ってもいいですか?
おすすめしません。簿記の参考書はほぼ毎年改訂され(年度版・版数アップ)、出題区分の変更や会計基準の改正が反映されます。とくに2021年度の改定で試験時間が短縮され(3級120分→60分、2級120分→90分)、出題形式も変わりました。ネット試験の模試プログラムなども最新版に付くため、必ず新しい版を選んでください。
まとめ
日商簿記の本選びは、級と自分のタイプに合わせるのが要です。3級で仕訳の土台を作り、同じシリーズで2級(商業簿記+工業簿記)へ進み、公式過去問がない前提で予想模試とネット試験対策を仕上げに入れる——この流れを押さえれば迷いません。
- 3級:最短なら一体型(『スッキリ』『パブロフ』)、じっくりなら『みんなが欲しかった! 教科書+問題集』
- 2級:3級と同じシリーズを継続、商業簿記+工業簿記の2冊
- 仕上げ:公式過去問は非公開。予想模試+ネット試験形式の演習で本番に慣れる
そして何より、簿記は読むだけでなく手で解くこと。復習スケジューラで演習の解き直しを計画し、集中できる自習室を活用して、買った本を最大限に生かしてください。日商簿記が日本に根づいた歴史に興味があれば、日商簿記はどう日本の必修教養になったかもあわせてどうぞ。