「英語をものにするには2000時間」「いや3000時間」「中学英語だけで十分」「大人はもう手遅れ」——英語学習の世界には、こうした数字と通説が洪水のようにあふれている。どれも、もっともらしく聞こえる。そして、たいてい出所が示されないまま、一人歩きしている。
この記事は、その数字と通説を、第二言語習得(SLA: Second Language Acquisition)の研究にまで降りて検証する試みだ。当サイトの学習科学シリーズは、これまで「勉強法」一般を原著論文に当たって検証してきた。本稿はその英語版にあたる。先に断っておくと、ここで出てくる数字に「これさえやれば」という魔法はない。出てくるのは、必要な時間の規模感と、その時間で何をすべきかという設計、そして「手遅れ」という思い込みの輪郭である。
検証する問いは四つだ。英語の習得に必要な時間はどれくらいか。語彙はどれだけ要るのか。聞いていれば・読んでいれば話せるようになるのか。そして、大人はもう手遅れなのか。順に見ていく。
なお、本稿の前提として一つ。「何時間やったか」は到達点を完全には決めない。同じ時間を投じても、何をやったかで結果はまるで変わる——この点は勉強時間の目安は本当かで詳しく検証した。時間は必要条件だが、十分条件ではない。この大前提を踏まえたうえで、まず「時間」の話から始める。
第1部 「英語◯◯時間」の出所をたどる
FSI——英語話者から見た日本語は、最難関
英語学習の「必要時間」を語るとき、最もよく引かれるのが米国の外交官養成機関 FSI(Foreign Service Institute)のデータだ。FSI は、英語を母語とする職員が各言語を実務レベルまで習得するのに要する時間を、長年の訓練実績から推定している。
そのランキングで、日本語は最難関グループに置かれている。英語を母語とする学習者が、日本語で実務上の高い習熟(職業上必要な会話・読解、いわゆる S-3/R-3)に達するには、約2,200授業時間(およそ88週)を要するとされる。これは、スペイン語やフランス語のような近い言語(約600〜750時間)の3倍以上だ。日本語が難しいのは、文法構造の遠さに加え、漢字・ひらがな・カタカナという複雑な表記体系のためだとされる。
ここで重要なのは、難しさは相互的だという点だ。英語話者にとって日本語が最難関なら、日本語話者にとって英語も最難関の側にある。だから、この「2,200時間」を向きを逆にして、「日本語話者が英語を習得するのに必要な時間」の目安として援用する議論がしばしばなされる。
(なお、FSI のカテゴリー番号は資料によって表記が揺れる。日本語を「カテゴリーIV のなかでも特に難しい言語」とする古い表記と、「カテゴリーV(最難関)」とする新しい整理が混在している。いずれにせよ、日本語が最上位の難関群に属し、約2,200時間とされる点は共通している。)
稲垣(2005)——日本人には、およそ2,500時間
この問いを、日本語話者の側から正面から見積もった研究がある。稲垣の論文「How Long Does It Take for Japanese Speakers to Learn English?」(2005)だ。
この研究は、日本人の英語教育者の主張、日本人学習者の TOEIC スコア、FSI における英語話者の日本語習得データ、そしてネイティブ並みの語彙を獲得するのに要する時間——という複数の根拠を突き合わせて推定する。導かれた数字は、日本語話者が高い英語力に達するにはおよそ2,500時間、そしてネイティブ並みの語彙までは、その少なくとも2倍が必要、というものだった。
この数字を、現実と引き比べると、事情がよく見える。日本の中学・高校・大学を通じて英語に触れる時間は、合計でおよそ1,000時間程度とされる。つまり、学校教育をまじめにこなしても、稲垣の見積もる「高い英語力」の入り口の半分にも届かない計算になる。多くの日本人が「あれだけ勉強したのに話せない」と感じるのは、根性や才能の問題というより、まず単純に、絶対的な接触時間が足りていないからだ。
CEFR——レベルのはしごを、時間で見る
もう一つ、時間の地図として有用なのが CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)だ。A1 から C2 までの6段階で言語熟達度を測るこの枠組みについて、ケンブリッジは各レベルに到達するための「指導下の学習時間(guided learning hours)」の目安を示している。
累計でおおむね、A2 が180〜200時間、B1 が350〜400時間、B2 が500〜600時間、C1 が700〜800時間、C2 が1,000〜1,200時間。1レベル上がるのに、ざっと200時間が目安だ。仕事で支障なく英語を使えるとされる B2 レベルで、累計500〜600時間ということになる。
ただし、ここには大きな但し書きがある。これは「教室で指導を受ける時間」の目安であって、独学の質、母語との距離、学習者の適性は織り込まれていない。日本語話者にとって英語は最難関の側にあるから、ヨーロッパ言語の話者を主に想定したこの数字より、実際にはもっとかかると考えるのが自然だ。CEFR の時間は、あくまで地図の縮尺にすぎない。
第1部の結論
数字を並べると、英語習得に必要な時間の規模感が見えてくる。研究ベースの目安は、おおむね2,000〜3,000時間。学校教育の約1,000時間では足りず、ネイティブ並みを望むならさらに倍の桁が要る。
だが、この時間はあくまで「必要条件」だ。同じ2,000時間でも、聞き流しに費やした2,000時間と、思い出す練習とアウトプットに費やした2,000時間では、到達点がまるで違う。時間は地図の縮尺であって、目的地への行き方そのものではない。次の三つの部で、その「行き方」を見ていく。
第2部 語彙という壁——「何語覚えれば足りるのか」
時間の次に、最も具体的で、最も残酷に正直なのが語彙の話だ。「中学英語で話せる」という主張と、「英語が全然聞き取れない」という実感の落差は、ほとんどここで説明がつく。
カバー率という考え方
語彙研究では、「テキスト中の何%の語を知っていれば、その文章を支障なく理解できるか」というカバー率(lexical coverage)で議論する。Nation(2006)は、未知語が多すぎると文脈推測すら働かなくなるため、自力で読んで理解するには98%のカバーが望ましいとした。
その98%カバーに必要な語彙量が、衝撃的だ。書き言葉(小説・新聞など)では、8,000〜9,000語族(word families)が必要になる。語族とは、play / plays / played / playing のような派生をひとまとめに数えた単位だから、実際の語数はさらに多い。
一方、要求をやや下げて95%カバーなら、固有名詞の知識とあわせておよそ3,000語族で届く。だが、95%とは20語に1語が未知語という状態で、これは「読めるが、こまかいところで取りこぼす」レベルだ。95%から98%へ、わずか3ポイント上げるために、5,000〜6,000語族もの上積みが要る。語彙の世界は、上に行くほど坂が急になる。
話し言葉は、少しだけやさしい
では会話やリスニングはどうか。話し言葉は書き言葉より使われる語が限られるため、要求はいくらか下がる。Nation(2006)によれば、話し言葉の98%カバーには6,000〜7,000語族。さらに van Zeeland & Schmitt(2012)は、リスニングの理解には95%カバーでも足りる場合があり、それなら2,000〜3,000語族で届くと報告している。
ここに、「中学英語で話せる」という主張の正体がある。日常会話の定型的なやり取りは高頻度語に偏るため、最頻出の2,000〜3,000語族を押さえれば、話し言葉のかなりの部分はカバーできる。だから「簡単なやり取り」なら、中学英語の延長で十分に成立する。これは嘘ではない。
問題は、その先だ。映画を字幕なしで楽しむ、小説を読む、ニュースや専門的な議論についていく——そうした「なんでも理解できる」レベルには、6,000〜9,000語族という分厚い壁が立ちはだかる。「中学英語で話せる」と「英語をものにする」のあいだには、語彙だけで数千語族の谷がある。
語彙は、時間より正直だ
語彙が残酷なのは、ごまかしが効かないからだ。勉強時間は「やった気」で水増しできるが、知っている単語の数は水増しできない。知らない単語は、何時間机に向かおうと、聞き流そうと、知らないままだ。
だからこそ、語彙こそ設計が効く。やみくもに単語を覚えるのではなく、頻度順に高頻度語から固める。最初の2,000〜3,000語族を確実にすれば、話し言葉の実用域に最短で届く。そして覚え方は、シリーズで検証した原則そのまま——訳を隠して思い出す検索練習と、間隔をあける分散学習だ。具体的なやり方は英語の勉強法探しは、もうやめろに譲るが、語彙ほど、この二つの手法が素直に効く領域はない。
第3部 「聞いていれば話せる」のか——インプット仮説とその限界
語彙を積むのと並行して、英語学習者が必ずぶつかるのが「インプットとアウトプット、どちらが大事か」という問いだ。「とにかく浴びろ」「聞き流せば耳が慣れる」という主張は根強い。これを研究の側から検証する。
理解可能なインプットという土台
第二言語習得の理論で最も影響力があるのが、Krashen の入力仮説(input hypothesis)だ。彼は、言語習得を進める本質的な要因は「理解可能なインプット(comprehensible input)」、すなわち学習者が理解できる言語入力だと主張した。自分の現在の力より少しだけ上(i+1)の、文脈の助けを借りればおおむね意味の取れる入力こそが、習得を前に進めるという考え方である。
ここから導かれる実践的な含意は明快だ。8割から9割は理解できる素材を選べ。逆に言えば、ほとんど意味の取れない音声は、学習者の脳にとって言語ではなく雑音であり、いくら浴びても言語としては処理されない。世にあふれる「聞き流すだけ」教材が、しばしば効果を生まないのは、この点を外しているからだ。理解できない入力は、量をいくら増やしても入力として機能しない。
多読は効く、ただし万能ではない
理解可能なインプットを大量に確保する代表的な方法が、やさしい本をたくさん読む「多読(extensive reading)」だ。これには相応の実証的裏づけがある。Nakanishi(2015)は、多読研究34本・43の効果量を統合したメタ分析で、対照群との比較で中程度の効果(d = 0.46)、学習前後の比較ではより大きな効果(d = 0.71)を報告した。多読は、読解力と語彙に効く。
ただし、ここにも限界がある。効果量は「中程度」であって魔法ではなく、効果が出るには長期間の継続を要する。そして決定的なのは、多読が伸ばすのは主に読解と語彙であって、話す力ではない、という点だ。インプットは土台ではあるが、土台だけでは家は建たない。
インプットだけでは、話せるようにならない
ここが、英語学習で最も誤解されている点だ。Krashen の入力仮説は強力だが、それだけでは産出(話す・書く)の力を十分に説明できない、という批判から、いくつもの理論が生まれた。
Swain の出力仮説(comprehensible output hypothesis, 1985)は、学習者が「相手に伝わるように産出しようと苦労する」過程そのものが習得を進めると論じた。話そう・書こうとして初めて、人は「自分がこれを言えない」という穴に気づく。Long の相互交流仮説(interaction hypothesis)は、理解可能なインプットの効果は、やり取りの中で意味を交渉する(聞き返す・言い直す)ときに大きく高まるとした。そして Schmidt の気づき仮説(noticing hypothesis, 1990)は、入力を使える知識に変えるには、その言語形式に「気づく」ことが不可欠だとした。
これらが共通して指し示すのは、聞くだけ・読むだけでは話せるようにはならない、という結論だ。話す力が欲しければ話し、書く力が欲しければ書く。インプットで土台を作りつつ、アウトプットで「言えなさ」に気づき、それを埋める。この往復が要る。これは、検索練習の「転移の壁」——思い出す訓練をしたまさにその形しか強くならない——と地続きの話でもある。リーディングをいくら鍛えてもスピーキングが自動的には伸びないのは、根が同じだ。
第4部 大人はもう手遅れか——臨界期の科学
最後の問いは、最も多くの大人を萎えさせる通説についてだ。「言語は子どものうちでないと身につかない」「大人になってから始めても無駄」——この臨界期(critical period)の通説を、最新の大規模研究で検証する。
17歳という、鋭い曲がり角
この問いに、かつてない規模で答えたのが Hartshorne, Tenenbaum & Pinker(2018, Cognition)だ。彼らは、オンラインの英文法クイズを通じて669,498人という桁外れの数の英語話者(母語話者・非母語話者を含む)のデータを集め、現在年齢・学習開始年齢・学習歴を統計的に切り分ける計算モデルを組んだ。
結論は鮮やかだった。文法を学ぶ能力は、おおよそ17.4歳まで高く保たれ、その後に低下し始める——というものだ。これは「臨界期は幼児期で閉じる」という通俗的なイメージよりずっと遅い。少なくとも文法に関しては、10代後半までは子どもに近い学習力が保たれる、というのがこの研究の含意である。
ただし、「17歳で崖」とは言いすぎだ
ここで、このシリーズの流儀どおり、限界まで踏み込んでおく。この17.4歳という鋭い曲がり角は、その後の再分析で批判を受けている。van der Slik らによる再分析(2022, Language Learning)は、元データを学習者のタイプ別に分けて解析すると、母語話者・早期イマージョン学習者などではむしろ「連続的にゆるやかに低下する」モデルのほうがよく当てはまり、「ある年齢で急に崖になる」という単一の臨界期は、集団を一括りにしたことで生じた見かけの結果だと論じた。タイプによって曲がり角は18.6歳や19.0歳とずれ、一つの鋭い臨界年齢があるという解釈は揺らいでいる。
つまり、最新の研究をフェアに読むと、こう言える。言語学習力は加齢とともに低下する傾向はあるが、それは「ある日突然閉じる扉」ではなく、「ゆるやかに傾いていく坂」に近い。そして、その坂は通俗的なイメージよりずっとなだらかで、ずっと遅い。
能力ごとに、ピークは違う
もう一つ大事なのは、「言語能力」を一枚岩で語ってはいけない、という点だ。発音やネイティブ的な直感的文法は、確かに若いほど有利な側面がある。一方で、語彙・読解・明示的な文法知識は、むしろ大人のほうが効率的に積める。すでに持っている母語の知識や世界の理解と結びつけられるからだ。
これは、当サイトのなぜ大人は勉強しなくなるのかで扱った、流動性知能と結晶性知能の話と重なる。新しい音を直感的に取り込む力(流動性寄り)は若さに分があるが、意味と知識を編み上げる力(結晶性寄り)は大人にも十分ある。大人の英語学習は、後者を活かす設計にすれば、不利を相当に埋められる。
結論——足りないのは能力ではなく、時間と仕組み
臨界期の科学が大人に告げるのは、「手遅れ」ではない。発音でネイティブと完全に並ぶのは難しいかもしれない。だが、仕事で支障なく使う、本を読む、議論についていく——という現実的な目標なら、大人が到達できないとする科学的根拠はない。
大人の英語学習で本当に足りないのは、脳の能力ではない。第1部で見た2,000〜3,000時間という時間と、それを続ける仕組みだ。この点は、ダイエットと英語学習の不気味な相似を論じた英語学習はダイエットにそっくりだでも繰り返した通りである。
第5部 科学が指し示す、英語学習の設計
四つの問いの検証を、設計図にまとめる。英語学習について、研究の側から言えることは、おおよそ次の五つだ。
- 時間は、覚悟する。研究ベースの目安は2,000〜3,000時間規模。学校の約1,000時間では届かない。短期決戦の幻想は捨てる。
- 語彙は、頻度順に積む。まず最頻出の2,000〜3,000語族で話し言葉の実用域へ。「なんでも理解」を望むなら6,000〜9,000語族の壁を覚悟する。覚え方は検索練習と分散学習。
- インプットは、理解できる難度で。8〜9割わかる素材を大量に。意味の取れない聞き流しは、入力として機能しない。
- アウトプットを、サボらない。話す力・書く力は、実際に話し・書いて、言えなさに気づき、埋める往復でしか育たない。伸ばしたい技能そのものの形で練習する。
- 年齢を、言い訳にしない。学習力の低下はなだらかで、大人は語彙・読解・知識で挽回できる。足りないのは能力ではなく時間と継続だ。
この五つを貫く一本の背骨が、シリーズで繰り返してきた結論である。「何時間やったか」より「その時間で何をやったか」。英語学習も、まったく同じだ。具体的な手法の実践は英語の勉強法探しは、もうやめろに、語彙を含む復習間隔の設計は忘れる前提でつくる復習スケジュールにまとめてある。
そして、2,000〜3,000時間という長丁場を最後に左右するのは、方法そのものではなく、続けられるかどうかだ。検索練習もアウトプット練習も、半年・一年と積んで初めて成果になる。継続を支えるのは意志ではなく環境だ。スマホや生活音にさえぎられない場所で、毎日机に向かう習慣をつくる——その地味な一手が、長い英語学習でいちばん効く。
- 自習室を探す — 中断されずに積み上げる時間を確保できる
- 24時間営業の自習室を探す — 仕事帰りや早朝にも通える
- 東京の学習スポット / 大阪の学習スポット
学び方の科学をさらに追いたい人は、勉強時間の目安は本当か・集中力と注意の科学・睡眠と記憶の科学もあわせてどうぞ。
よくある質問
英語が聞き取れません。リスニングはどう鍛えればいいですか?
まず、教材の難度を見直してください。理解可能なインプットの考え方では、8〜9割は意味の取れる素材が最も効きます。ほとんど聞き取れない音声を流し続けても、脳は言語として処理せず、効果は乏しくなります。そのうえで、ただ聞くだけにせず、書き取り(ディクテーション)や、聞いた内容を口に出すシャドーイングで「思い出す・産出する」負荷をかけると、同じ時間でも定着が大きく変わります。背景には、リスニングにも一定の語彙量(話し言葉の95%カバーで2,000〜3,000語族)が要るという事情もあり、語彙とリスニングは並行して伸ばすのが効率的です。
スピーキングを伸ばしたいのに、なかなか上達しません。
インプット中心の学習になっていないか、見直してみてください。読む・聞くをいくら積んでも、話す力は自動的にはついてきません(転移の壁)。話す力は、実際に話して、自分の言えなさに気づき、それを埋める往復のなかで育ちます。オンライン英会話や独り言での英作文、瞬間英作文のように、本番と同じ「産出する形」で練習することが近道です。完璧な英文を待つより、まず口に出す回数を増やすことを優先してください。
単語をたくさん覚えるのと、文法を固めるのと、どちらを優先すべきですか?
目的によりますが、まず高頻度の語彙を優先するのが効率的です。語彙が決定的に足りないと、文法を知っていても文の意味そのものが取れません。最頻出の2,000〜3,000語族を固めると、話し言葉のかなりの部分が見えるようになります。そのうえで、似た文法項目を混ぜて演習し(インターリービング)、「なぜこの形になるのか」を自分の言葉で説明する(自己説明)と、文法の定着も進みます。語彙と文法は二者択一ではなく、語彙をやや先行させつつ並行するのが現実的です。
社会人で時間がありません。1日どれくらいやれば届きますか?
仮に必要時間を2,500時間とすると、1日1時間で約7年、1日2時間で約3〜4年という規模感です。数字だけ見ると気が遠くなりますが、ここで効くのが設計です。同じ時間なら、読み返しより思い出す練習を、まとめてより間隔をあけて、インプットだけよりアウトプットを交ぜて——という配分にするだけで、時間あたりの効率が変わります。通勤や昼休みのスキマを語彙の検索練習にあて、まとまった時間を自習室で確保する、というように生活へ組み込むことが、長丁場を完走する鍵になります。
主な参考文献(原典)
- Inagaki, S. (2005). How Long Does It Take for Japanese Speakers to Learn English? ——日本語話者が高い英語力に達するには約2,500時間、ネイティブ並み語彙までその少なくとも2倍と見積もった研究。
- U.S. Foreign Service Institute (FSI), Language Difficulty Rankings. ——日本語を最難関群に分類し、英語話者の実務レベル到達に約2,200授業時間(88週)を要するとする訓練実績ベースの推定。
- Cambridge English, Guided Learning Hours. ——CEFR 各レベル到達の指導下学習時間の目安(B2 で累計500〜600時間ほか)。
- Nation, I. S. P. (2006). How Large a Vocabulary Is Needed for Reading and Listening? Canadian Modern Language Review. ——書き言葉98%カバーに8,000〜9,000語族、話し言葉98%カバーに6,000〜7,000語族が必要とした語彙研究。
- van Zeeland, H., & Schmitt, N. (2012). ——リスニングは95%カバーでも理解が成立する場合があり、それなら2,000〜3,000語族で届くとした研究。
- Nakanishi, T. (2015). A Meta-Analysis of Extensive Reading Research. TESOL Quarterly. ——多読34研究・43効果量を統合し、対照群比較で d = 0.46、前後比較で d = 0.71 の効果を報告。
- Krashen, S. (Input Hypothesis), Swain, M. (Comprehensible Output Hypothesis, 1985), Long, M. (Interaction Hypothesis), Schmidt, R. (Noticing Hypothesis, 1990). ——インプット・アウトプット・相互交流・気づきという第二言語習得の主要理論。
- Hartshorne, J. K., Tenenbaum, J. B., & Pinker, S. (2018). A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers. Cognition. ——669,498人のデータから、文法学習力が約17.4歳まで保たれ以降低下すると報告。
- van der Slik, F., et al. (2022). Critical Period Claim Revisited. Language Learning. ——上記の再分析。学習者タイプ別では連続的低下のモデルが当てはまり、単一の鋭い臨界年齢という解釈に疑問を呈した。
注記
本記事は、第二言語習得(SLA)および語彙・臨界期研究の知見を、日本語話者の英語学習という観点から再構成したものです。FSI・CEFR の学習時間はいずれも訓練実績や指導を前提とした「目安」であり、独学の質・母語との距離・個人差により実際の所要時間は大きく変動します。語彙のカバー率と必要語族数は研究条件下の推定であり、理解の成立を保証する確定値ではありません。臨界期については、本文に記したとおり一次研究と後続の再分析で解釈が分かれており、本稿は両論を併記する立場をとりました。学習法の効果量・境界条件の詳細は、当サイトの学習科学シリーズ各記事をご参照ください。