コンクリートで街を覆い尽くした20世紀への、静かな反論。それが、建築家・隈研吾が掲げた「負ける建築」でした。素材は、木。手本は、その土地の森と職人。彼の図書館に足を踏み入れると、本よりも先に、まず木の匂いが出迎えてくれます。

この特集では、隈研吾が手がけた2つの図書館を写真とともに深掘りします。ひとつは四国山間の小さな町に、もうひとつは富山の街なかに。場所はまるで違うのに、どちらも「木の力」に満ちています。

「負ける建築」— 木と自然に還る建築家

隈研吾は1954年生まれ。国立競技場(2019年)の設計者として、その名は一般にも広く知られます。コンクリートやガラスで自己主張する建築に背を向け、木や石、土といった地域の自然素材を主役に据える姿勢を、彼は「負ける建築」と呼びました。

すべては、ひとつの小さな町から始まった

隈研吾の木造建築の原点は、高知県の山あいにある梼原町(ゆすはらちょう)にあります。1987年、彼はこの町で木造の芝居小屋「梼原座」に出会い、その保存に関わったことをきっかけに、町と長い付き合いを始めました。雲の上のホテル、総合庁舎、ギャラリー、まちの駅——梼原には、隈の木造建築が点々と建ち、いつしか「隈研吾建築のミュージアム」とも呼ばれる町になりました。その集大成のひとつが、次に紹介する図書館です。

雲の上の図書館 — 杉の森に、分け入る

雲の上の図書館(梼原町立図書館)(高知県梼原町)の建築・空間の写真隈研吾・2018年
雲の上の図書館(梼原町立図書館)高知県梼原町 施設ページ

2018年に開館した雲の上の図書館(梼原町立図書館)。扉を開けた瞬間、息をのみます。天井からは、無数の杉の梁が枝のように四方へ伸び、頭上に木の森が広がっているのです。

木漏れ日が降る、混構造の森

梼原産のスギ材をふんだんに使い、鉄と杉の混構造で実現したこの空間。複雑に組み上げられた登り梁・重ね梁が、まさに森の樹冠のように覆いかぶさり、その隙間からやわらかな光が落ちてきます。階段状になった床に腰を下ろせば、木に抱かれて本を開く、ほかにない読書体験が待っています。

森の中の町・梼原にふさわしい、森のような空間。木漏れ日のふりそそぐ室内を、隈は鉄と杉の混構造で立ち上げた。

靴を脱いで、一日過ごす図書館

館内は靴を脱いで上がるくつろいだ造りで、子どもから大人まで一日を過ごせる場所として親しまれています。福祉施設「YURURIゆすはら」と一体となった複合建築でもあり、図書館が町の暮らしにそっと溶け込んでいるのも梼原らしさ。標高の高い山間の町まで、この建築だけを目当てに人が訪れます。

TOYAMAキラリ — 都市に立つ、木の渓谷

TOYAMAキラリ 富山市立図書館本館(富山県富山市)の建築・空間の写真隈研吾・2015年
TOYAMAキラリ 富山市立図書館本館富山県富山市 施設ページ

山あいの梼原とは対照的に、こちらは富山の街なかに立つ複合施設「TOYAMAキラリ」(2015年)。富山市立図書館本館、富山市ガラス美術館、銀行が同居する、街のランドマークです。

立山連峰を映す外観、内に抱く吹き抜け

外観は、御影石・ガラス・アルミの約1,000枚のパネルが、立山連峰の岩肌や雪のように複雑な表情をつくります。そして一歩なかに入ると、2階から6階までを貫く斜めの大吹き抜けが来館者を見上げさせる。壁面には富山県産の杉ルーバーがびっしりと張られ、都市のビルのただ中に、木でできた渓谷のような縦の空間が出現します。

「木のあたたかさ」を都市で実装する

冷たくなりがちな複合ビルに、地域の杉で体温を与える。梼原で確立した「地域の木材を主役にする」手法を、隈は都市建築のスケールに翻訳してみせました。吹き抜けを見上げながらの読書は、ここでしか味わえない高揚感があります。

隈研吾の図書館に、通底するもの

四国の小さな町と、北陸の県都。離れた2館に、同じ思想がはっきりと刻まれています。

  • 地域の素材を主役にする:梼原の杉、富山の杉。その土地の森が、そのまま建築になる。
  • 木の「組み方」を見せる:登り梁、ルーバー。構造の手わざが、そのまま意匠の美しさになる。
  • コンクリートに「負ける」:素材の質感と陰影を優先し、建築が自然や街に溶け込む。
  • 見上げたくなる空間:天井や吹き抜けに物語を込め、人の視線を上へ、外へと導く。

隈にとって図書館とは、本を守る箱である以前に、地域の森を都市や暮らしへ運び込む装置なのかもしれません。

訪れる前に

  • 入館・閲覧は無料。建築見学だけの来館も歓迎されています。
  • 撮影はルールを確認:他の利用者を写さない、フラッシュ禁止、要申請など館により異なります。
  • アクセスは下調べを:とくに梼原町は山間部のため、車での来訪と所要時間の確認がおすすめ。
  • 開館時間・休館日を事前にチェック:来館前に各施設の公式サイトで最新情報を。

よくある質問

Q. 隈研吾が設計した図書館はどこにありますか? A. 代表的なのは、高知県梼原町の雲の上の図書館(梼原町立図書館・2018年)と、富山県の富山市立図書館本館が入るTOYAMAキラリ(2015年)です。どちらも地元産の杉をふんだんに使った木の建築で知られます。

Q. 隈研吾はどんな建築家ですか? A. 1954年生まれの世界的建築家で、コンクリートに頼らず木や石など地域の自然素材を生かす「負ける建築」で知られます。国立競技場の設計や、高知・梼原町での一連の木造建築でも有名です。

Q. 雲の上の図書館では何ができますか? A. 梼原産の杉に包まれた空間で、読書や見学が楽しめます。靴を脱いで上がるくつろいだ造りで、子どもから大人まで一日過ごせる図書館として親しまれています。入館は無料です(開館状況は公式でご確認ください)。

調査方法・写真について

本記事は、各施設・自治体の公開情報および建築に関する公表資料をもとに、編集部が2026年6月時点で確認して構成しています。掲載写真は各施設のGoogleマップ等で公開されている写真を利用しています。設計者・竣工年などの事実は公的資料で確認していますが、最新の開館状況・撮影可否は各施設の公式サイトでご確認ください。

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