税理士試験は長く「受験者が減り続ける試験」でした。ところがここ数年、その流れが逆転しています。2020年に底を打った受験者数は、2023年の制度変更を境にV字回復し、受験層も一気に若返りました。何が起きたのでしょうか。

その答えを探っていくと、戦争の時代に生まれた制度の成り立ちや、「自分で税金を申告する」という戦後日本の選択、そして業界全体を覆う高齢化という時限爆弾にまで行き着きます。この記事では、国税庁の統計をグラフで追いながら、税理士という資格がたどった歴史と、いまの受験生が立っている地点を読み解いていきます。「資格試験の歴史的推移と現在地」シリーズの一編です(司法試験編公認会計士編もどうぞ)。

この記事の要点

  • 税理士のルーツは1942年の税務代理士法。戦時下の人手不足と税制の複雑化が生んだ制度だった
  • 戦後の申告納税制度とシャウプ勧告を経て、1951年に現在の税理士法が成立した
  • 試験は「科目合格制」。5科目を生涯かけて積み上げられるため、社会人受験生が多い
  • 税務署OBには勤務年数に応じた科目免除があり、試験で5科目を突破する人はむしろ少数派
  • 受験者数は2005年ごろの約5.6万人から2021年の約2.7万人へほぼ半減した
  • 背景には業界の深刻な高齢化(60代以上が過半)。危機感が2023年の受験資格撤廃を生んだ
  • 緩和で若年層が増え受験者はV字回復。一方でAIと電子申告が仕事のかたちを変えつつある

税理士はなぜ生まれたのか — 戦争、シャウプ勧告、「自分で申告する国」

税理士という職業の起源は、意外にも戦争にあります。

直接のルーツは、1942年(昭和17年)に制定された「税務代理士法」です。日中戦争・太平洋戦争のもとで増税が相次ぎ、税のルールはどんどん複雑になっていきました。ところが、その税務を扱う役所の側は、徴兵で人手が足りません。複雑な税の計算を代行する専門家を、きちんと法律で位置づける必要に迫られた——これが税務代理士法が生まれた背景でした。制度の出発点が「民主化」ではなく「総力戦の必要」だったというのは、少し意外な事実です。

風景が大きく変わったのは戦後です。1947年(昭和22年)、日本は「申告納税制度」を導入します。それまでの税は、役所が税額を計算して国民に通知する「賦課課税」が中心でした。これを、納税者が自分で所得を計算し、自分で申告して納める方式へと切り替えたのです。「税のDIY化」とも言えるこの転換が、税理士という職業を決定的に重要なものにしました。なぜなら、制度の信頼は「国民が自発的に、正しく申告すること」にかかっているからです。正しく申告するのを助ける専門家がいなければ、この仕組みは回りません。

そこに決定的な後押しを与えたのが、1949年から翌年にかけて出された「シャウプ勧告」です。GHQの要請で来日した、カール・シャウプ博士を団長とする税制使節団の報告書で、所得税を中心とする直接税中心の税制と、納税者の自発的な納税協力を引き出す仕組みを提言しました。この勧告のなかで、税務代理という仕事の重要性も指摘されたとされ、制度刷新の引き金になります。そして1951年(昭和26年)、現在につながる「税理士法」が成立し、戦時生まれの税務代理士法は役目を終えました。アメリカ人学者の一つの報告書が、現代の税理士制度を形づくった——そう言っても大げさではありません。

制度と受験者数の流れを年表で見てみましょう。

  1. 特徴

    科目合格制という仕組み

    全11科目のうち会計学2科目+税法3科目の計5科目に合格すれば資格取得。一度合格した科目は生涯有効で、働きながら数年かけて積み上げる受験生が多い。

  2. 2010年代

    受験者数の長期減少

    他資格・他業種への人材流出などを背景に、受験者数は2010年代を通じて減少が続いた。

  3. 2020

    26,673人で底

    コロナ禍も重なり、受験者数が直近の最低水準まで落ち込む。

  4. 2022

    税理士法を改正

    令和4年の改正で、翌年試験からの受験資格の大幅緩和が決まる。

  5. 2023

    受験資格を撤廃・緩和

    会計学科目(簿記論・財務諸表論)の受験資格を撤廃し誰でも受験可能に。税法科目の学識要件も緩和され、大学生・高校生の受験が増加。受験者数はV字回復に転じた。

  6. 2025

    現在地:受験者は直近最多

    受験者36,320人と緩和後の増加が続き、合格率は21.6%。受験層の若返りと受験者増が定着しつつある。

まず「科目合格制」を理解する

税理士試験を語るうえで欠かせないのが、独特の合格方式です。試験は会計学2科目(簿記論・財務諸表論)と、法人税法・所得税法・相続税法などの税法から選ぶ科目で構成され、合計5科目に合格すれば資格を取得できます。

最大の特徴は、一度合格した科目が生涯有効であること。だから多くの受験生は、1年で5科目すべてを目指すのではなく、働きながら1〜2科目ずつ、数年かけて合格を積み上げていきます。社会人受験生が極めて多いのは、この仕組みがあるからです。「短期決戦の一発勝負」ではなく「長期の積み上げ戦」——これが税理士試験の基本性格です。

もう一つの入口 — 税務署OBという「試験を受けない税理士」

ここで、外からは見えにくい税理士制度の一面に触れておきます。税理士になる道は、5科目の試験合格だけではありません。

国税の職場で働いた人には、勤務年数に応じて試験科目が免除される制度があります。一定年数の勤務に加えて指定の研修を修了すれば、税法だけでなく会計科目まで免除され、長く勤めた人は実質的に試験を受けずに税理士登録できる場合もあります。その研修の修了試験は、合格率が高いことで知られています。

この免除ルートの存在は、税理士という資格の性格を大きく左右してきました。実際、5科目すべてを試験で突破して登録する人は、いまや多数派ではありません。ある年(2021年度)に新しく税理士登録をした人を取得経路で見ると、5科目すべてを試験で突破した「試験合格」は約4分の1にとどまり、勤務年数などによる「試験免除」での登録が約5割と最も多くを占めました。「難関試験を全部突破した人が4人に1人」というのは、ほかの士業にはあまり見られない、税理士ならではの構造です。ただし、税務署OBが税理士に占める割合自体は長期的には下がってきており、かつては半数近くを占めた時代から、近年は3割前後へと減少しています。

減り続けた20年と、2020年の底

次のグラフは、税理士試験の実受験者数(棒)と合格率(折れ線)の推移です。

税理士試験 受験者数と合格率の推移(2015〜2025)

  • 実受験者数
  • 合格率(%)
010,00020,00030,00040,000051015202520152016201720182019202020212022202320242025
出典: 国税庁「税理士試験結果」各年

棒グラフが示すのは、長い下り坂です。グラフは2015年からですが、より長いスパンで見ると、受験者数は2005年ごろの約5.6万人をピークに、2010年の約5.1万人、そして2021年には約2.7万人へと、ほぼ半減してきました。グラフ内でも、2015年の38,175人から2020年の26,673人まで、はっきりと右肩下がりです。

なぜ、これほど受験者が減ったのでしょうか。理由は一つではありません。会計人材が公認会計士や一般企業へ流れたこと、少子化で若年人口そのものが減ったこと。そして見落とせないのが、受験資格のハードルでした。かつては「大学3年次以上」「法律学・経済学を履修していること」といった条件があり、若い世代が思い立ってすぐ受験できる試験ではなかったのです。5科目をそろえるのに数年かかる長期戦であることも、敬遠の一因でした。とりわけ2020年はコロナ禍も重なり、受験者数は直近の最低水準まで落ち込みます。

合格率(赤い折れ線)が16〜22%の間で上下しているのも、この試験の特徴です。ここで注意したいのは、この合格率が「5科目すべてに到達した人の割合」ではないこと。公表される合格率は、その年に一部の科目に合格した人を含んだ数字です。5科目すべてをそろえて官報に載る「官報合格者」は、毎年数百人規模(2025年は527人)にとどまります。つまり合格率2割前後という数字の見た目ほど、資格取得は甘くありません。

高齢化という時限爆弾

受験者の減少と並んで、業界がもっと深刻に受け止めていた問題があります。税理士自身の高齢化です。

ある業界調査によると、税理士のうち60代以上が占める割合は、なんと全体の約54%。最も多い年齢層は60代で約3割を占め、70代・80代も合わせると相当な数になります。一方で20代はわずか0.6%、30代を加えても1割ほど。平均年齢は60歳前後とされます。「10人に1人しか若手がいない」職業——それが税理士業界の現実でした。

これは、単なる年齢構成の問題ではありません。高齢の税理士が引退すれば、その事務所を引き継ぐ後継者が要ります。ところが若手が極端に少ないため、後継者が見つからず廃業に追い込まれる事務所が続出しかねない。顧問先の中小企業にとっては、長年付き合ってきた税理士が突然いなくなることを意味します。受験者が減り続け、業界が高齢化していく。このまま放置すれば制度そのものが立ち行かなくなる——そんな危機感が、次の大改革を後押ししました。

2023年、受験資格の撤廃が流れを変えた

潮目が変わったのが2023年です。令和4年の税理士法改正を受け、2023年(令和5年)試験から受験資格が大幅に緩和されました。

とりわけ大きかったのが、会計学科目である簿記論・財務諸表論の受験資格を撤廃したこと。これにより、それまで簿記1級合格などの条件が必要だった高校生や大学1・2年生も、誰でも受験できるようになりました。あわせて、税法科目を受けるための学識要件も、「法律学・経済学」から「社会科学に属する科目」へと広げられ、社会学や政治学などを学んだ人も対象になりました。減り続ける受験生を食い止め、若い世代を早く呼び込む——業界の危機感が、入口の扉を大きく開いたのです。

効果はすぐに表れました。受験者数は2020年の26,673人を底に増加へ転じ、2023年に32,893人、2024年34,757人、そして2025年は36,320人と、直近で最多を記録しています。新たに加わったのは若い世代です。実際、若年層ほど合格率が高く、たとえば20歳以下の合格率は約35%と、全体の21.6%を大きく上回りました。早い段階から会計科目に挑戦できるようになり、受験層全体が若返ったのです。長く高齢化・減少が指摘されてきた試験が、入口を広げることで活気を取り戻しました。

AIと電子申告の時代に — 税理士の仕事はどう変わるか

受験生が戻ってきた一方で、税理士の「仕事の中身」もまた、大きく変わろうとしています。

象徴的なのが電子申告(e-Tax)の普及です。国税庁の公表によれば、法人税申告の電子化率はすでに86%を超え、所得税申告も約7割に達しました。さらに、領収書や請求書をAIが読み取って自動で帳簿をつける会計ソフトが広く使われるようになり、記帳代行や月次決算といった、かつて税理士事務所の主力だった定型業務は、急速に自動化されつつあります。「税理士に頼まなくても完結できる範囲」が、年々広がっているのが現実です。

ただし、これは税理士不要論を意味しません。2023年に始まったインボイス制度や、国際的な課税ルールの見直しなど、税のルールはむしろ複雑になり続けています。複雑化は、新たな税務リスクと、それに対応できる専門家の需要を生みます。定型業務がAIに置き換わるぶん、事業承継や相続のアドバイザリーといった、判断と経験がものを言う付加価値の高い領域へと、税理士の役割はシフトしています。後継者不足に悩む中小企業の事業承継を支えることは、これからの税理士の大きな仕事になっていくでしょう。

科目の選び方という、もう一つの戦略

税理士試験には、ほかの試験にはない独特の「戦略性」があります。どの科目を選ぶか、です。

会計学の2科目(簿記論・財務諸表論)は全員必須ですが、税法は複数の科目から選んで受験します。法人税法と所得税法のうち最低1つは選ぶ必要があり、これらは「ボリューム科目」と呼ばれる学習量の多い科目です。一方で、国税徴収法・住民税・事業税といった「ミニ税法」は相対的に学習量が少なく、短期間で仕上げやすいとされます。実務でよく使う科目を選ぶか、合格しやすさを優先するか——受験生は自分のキャリアプランと残り時間をにらみながら、科目の組み合わせを設計していきます。

定石とされるのは、まず会計の土台となる簿記論・財務諸表論から着手し、そのうえで税法へ進む流れです。科目合格が生涯有効だからこそ、「今年はこの科目、来年はあの科目」と数年がかりの計画を立てられる。逆に言えば、計画と継続が崩れると一気に長期化します。この点でも、毎年安定して学習を積み続けられる環境づくりが、合格までの年数を大きく左右するのです。

現在地:若返る受験生と、変わらない長期戦

2025年の税理士試験は、受験者36,320人・合格率21.6%。受験資格緩和の効果が定着し、受験者数の増加と若返りが続いています。一方で、5科目をそろえるまでに数年を要する「積み上げ戦」という本質は変わっていません。入口は広がったものの、ゴールまでの距離はなお長い——それがいまの税理士試験です。

入口が広がったことは、これから挑戦する人にとって追い風です。早く始めるほど、合格科目を生涯の資産として積み上げる時間を長く取れます。戦争の時代に生まれ、申告納税という戦後の選択に支えられ、いままた若い世代を迎え入れようとしている。税理士は、時代とともに姿を変えながら、社会に欠かせない役割を担い続けています。

これから目指す人へ — 積み上げ戦を支える学習環境

科目合格制の試験は、数年がかりのマラソンです。働きながら、あるいは学業と並行して、毎年コンスタントに学習時間を確保し続けられるかどうかが合否を分けます。短期間で燃え尽きるより、長く走り続けられる環境を整えることが何より大切です。

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よくある質問

そもそも税理士制度はなぜ生まれたのですか?

源流は1942年(昭和17年)の税務代理士法です。戦時下で税制が複雑化する一方、徴兵で税務行政の人手が不足し、専門家を法的に位置づける必要が高まりました。戦後の1947年に「納税者が自分で申告する」申告納税制度が導入され、1949年のシャウプ勧告を経て、1951年に現在の税理士法が成立しました。自分で正しく申告する制度を支える専門家として、税理士が必要とされたのです。

税理士試験の「科目合格制」とは何ですか?

全11科目のうち会計学2科目と税法3科目の計5科目に合格すれば資格を取得できる制度です。一度合格した科目は生涯有効なので、働きながら1科目ずつ数年かけて合格を積み上げる人が多いのが特徴です。

税務署OBは試験を受けずに税理士になれるのですか?

国税の職場での勤務年数に応じて試験科目が免除される制度があります。たとえば一定年数の勤務と指定研修の修了で会計科目まで免除され、長く勤めた人は実質的に試験を受けずに登録できる場合もあります。このため、5科目すべてを試験で合格して登録する人はむしろ少数派で、近年は試験免除による登録が試験合格に迫る割合を占めています。

税理士試験の受験者数はなぜ増加に転じたのですか?

2023年(令和5年)試験から受験資格が大幅に緩和され、簿記論・財務諸表論が誰でも受験できるようになったためです。大学生・高校生など若年層の受験が増え、2020年の26,673人を底に増加へ転じ、2025年は36,320人と直近で最多になりました。

税理士試験の合格率が16〜22%と高めなのはなぜですか?

公表される合格率は5科目すべてに到達した人だけでなく、その年に一部の科目に合格した人を含むためです。5科目すべてに到達する官報合格者は毎年数百人規模で、資格取得までは長い道のりになります。

税理士試験合格にはどれくらいかかりますか?

科目合格を積み上げる方式のため、働きながらだと数年〜10年規模になることも珍しくありません。長期戦を支える安定した学習環境の確保が重要です。

社会人でも税理士試験は目指せますか?

科目合格制により1科目ずつ受験できるため、社会人受験生が多い試験です。平日夜や休日に通える立地と、長時間集中できる自習室の活用が合格率を左右します。

調査方法・データについて

  • 受験者数(実受験者数)・合格者数・合格率は、国税庁が公表する各年の「税理士試験結果」をもとに集計しました。
  • 公表合格率には5科目到達者(官報合格者)に加えて一部科目合格者が含まれます。記事中ではその違いを明記しています。
  • 制度の背景(税務代理士法・申告納税制度・シャウプ勧告・税理士法の沿革、科目免除制度、業界の年齢構成、受験資格緩和、電子申告の普及など)は、日本税理士会連合会・国税庁などの公表資料や各種解説をもとに整理しました。年齢構成や取得経路の割合などは調査時点の値で、出典により差がある場合があります。
  • 本記事のグラフは、上記の公的統計を当サイトが図表化したものです。数値は複数の公開資料でクロスチェックしています。
  • データ取得・確認日: 2026年6月6日。最新年の数値や制度は今後の発表・改正により更新される場合があります。